一般財団法人日本教育基盤財団

第1章 事業概要

第1節 事業の趣旨・目的
 ゲーム・アニメを中心としたコンテンツ業界ではクールジャパン戦略による海外展開に伴い、その魅力を国外に発信するマーケティング部門や対象国へのローカライズ等を行うプロダクト部門等においてグローバル人材や外国人材の採用及び育成の必要性が高まっている。ゲーム業界の例としては、キャリア採用においてビジネスレベルの外国語能力を歓迎条件の1つとして複数の職種で挙げ、外国人材の採用を進めている企業がある。また、「グローバル市場の変化に即応できるゲームを開発するため、日本人にない視点、発想、センスが必要となる」という観点から外国人クリエイター・プログラマーの採用及びマネージャクラスへの登用も積極的に行っている企業もある。さらに、国家戦略特区はクールジャパン外国人材の受入れ促進の一環としてアニメ・ゲーム等のクリエーター職を目指す外国人の活動を促進するための施策を推進している。あるアニメ・ゲーム・マンガの専門求人サイトによれば、「欧米やアジア圏を出生とする外国人の登録が増えて」いるとのことである。したがって、現在クールジャパン・コンテンツ関連の企業に就職を希望する高度外国人材は増加しており、今後さらに求人・採用が増加していくと考えられる。
 しかしながら、外国人材と日本企業の間で文化的・職業観的ギャップが生じ、業務遂行に支障をきたす事例も数多く報告されている。このような現状に対応するためには、外国人材自身による日本企業に対する理解の促進はもとより、受け入れ企業側が外国人材活用に関する理解度を高めることも必要である。
 そこで本事業では、はじめに、ゲーム等のコンテンツ関連の企業を対象に外国人雇用に関する実態・事例調査を行う。そして、調査結果をもとに外国人材受け入れの際に必須となるダイバーシティマネジメント学び直し講座を開発する。さらに、関連する分野の学科を設置する専門学校・企業と連携し、eラーニングを活用した実効性の高い講座運営モデルを構築し、実施展開を進める。

第2節 現状の課題に関する整理と本事業の方針
 外国人材の活用が今後ますます進むと思われるゲーム等のクールジャパン・コンテンツ業界であるが、外国人材の受け入れに関するダイバーシティマネジメントの学習が広く行われているとは言えない状況である。それには、@高度外国人材受け入れ体制に関する問題、Aグローバル人材育成研修、ダイバーシティマネジメント研修の内容に関する問題、B研修時間の制約に関する問題、といった理由があると考えられる。

@高度外国人材受け入れ体制に関する問題
 旧来の外国人材雇用は、日本式の採用システム、研修、待遇といった企業文化の中に他の日本人社員と同様に外国人材を当てはめる形式が大半であった。それゆえ、自身の母国のシステムや自身の労働観と異なる日本式のシステムに困難を感じた外国人材は、たとえ優秀であったとしても定着しないというケースが少なくなかった。近年では、高度外国人材受け入れに対応し適切に受け入れ環境を整備し始めている比較的大きな企業もある。しかし、ゲーム等のコンテンツ業界では中小規模で比較的歴史の浅い企業が多く、外国人材受け入れに必要なノウハウを企業内で蓄積して学習する体制が整っていない可能性がある。そのような場合、社内研修で外国人材受け入れに必要な知識やスキルの学び直しの機会を提供することができていないという状況が想定できる。

Aグローバル人材育成研修、ダイバーシティマネジメント研修の内容に関する問題
 加速するグローバル化のなかで、国外の企業との連携といった業務における外国人材とのコミュニケーションの必要性から、グローバル人材育成のニーズはさらに高まっている。また、少子高齢化社会の中で継続的に優秀な人材を確保するため、多様な人材の積極的活用を目指すダイバーシティマネジメントも近年急速に進んでいる。ゲーム等のコンテンツ業界においても、海外へのマーケティングや発注、ローカライズ等の業務から、グローバル人材育成・ダイバーシティ活用は重要視され始めている。
 このような企業側からの要請に応えるため、グローバル人材育成やダイバーシティマネジメントについて学ぶ研修、ワークショップ、講演会等が多数開催されており、外国人材受け入れに関する知識やスキルを一部学ぶことが可能になっている。しかし、そういった研修の多くは異文化コミュニケーションや海外ビジネスマナーといった内容に重きを置いており、マネジメント分野に関する知識・スキルを提供していない。また、ダイバーシティマネジメント研修に関しては、女性・外国人・障がい者・高齢者を幅広く扱うか、女性活躍推進に焦点を絞ったものが多い。したがって、外国人材受け入れに特化したマネジメント研修は極めて少なく、学び直しの機会が十分に提供されていないのが現状である。

B研修時間の制約に関する問題
 既存の外国人材受け入れや異文化マネジメントに関する研修は、1日もしくは数日間の短期日程内で集中的に集合学習を行うものが多い。しかし、そのような短期間の研修においては十分な学習時間が確保されておらず、知識学習とスキル学習のうち一方しか学べないか、両方を学べるが内容面に不足がある場合が多い。
 また、多忙な現場マネージャや管理職には、1回で長時間の拘束をともなうタイプの研修の受講は馴染まない。さらに、コンテンツ業界では納期・スケジュールの変更やバグの発生など突発的なトラブルも多く、安定した学習時間確保が難しい状況にある。したがって、知識学習とスキル学習の両方において十分な学習時間と内容のある研修を用意しても、集合学習がベースとなっている限りは学習への取り組みが難しい。
 これらの課題を整理した結果、以下のように考えることができる。
@まだ外国人材受け入れに関するノウハウを確立できていないクールジャパン・コンテンツ業界の企業に対して、コンテンツ分野の企業の外国人材事情に合わせた内容を提供する必要性が高い。
Aコミュニケーションだけでなく、マネジメントも含めた外国人材対応特化型のカリキュラムによる講座を提供する必要性が高い。
Beラーニング等を有効に活用し、時間に制約があり多忙な立場の人々にも対応できる柔軟性のある講座を提供する必要性が高い。
 上記のニーズに対応した講座を開発することを、本事業の方針とする。

第3節 今年度の事業概要
 平成30年度は、以下の3項目の事業を実施した。

@実態・事例調査の実施
●【調査A】ゲーム会社等における外国人雇用及び海外進出に関する実態調査
 外国人採用、待遇、海外進出の際の日本人社員の役割、課題等に関する情報収集分析を行った。
●【調査B】コンテンツ及びIT、情報通信系企業における外国人材受け入れ事例調査
 外国人材受け入れの際の問題点や課題及び業界の外国人材雇用に関する現状と今後に関する情報収集分析を行った。

A講座のプログラム開発
●カリキュラム開発
 実態・事例調査の結果をもとに現場マネージャクラス及び人事採用マネージャを対象とした学び直し講座のカリキュラムを策定した。その学習形態はeラーニングを活用したブレンディング学習を前提とした。

B講座実施モデル構築
●実施モデル検討項目の整理
 講座実施モデルのプロトタイプ構築及び実証実験の実施に必要となる募集方法、実施形態、eラーニング利用形態、受講者管理など検討事項を整理した。

第4節 今年度の具体的取り組み
@実態・事例調査の実施
学び直し講座のプログラム開発(カリキュラム開発、シラバス策定、eラーニング及びスクーリング用教材の内容の検討)のため以下の2種類の調査を実施した。
●調査A
【調 査 名】ゲーム会社等における外国人雇用及び海外進出に関する実態調査
【目  的】ゲーム等のコンテンツ業界の企業の外国人材受け入れの現状及び海外進出状況について情報を得る。
【対  象】ゲーム等のコンテンツ業界の企業1000社程度を対象に30社程度の回収を目指す。
【手  法】アンケート調査
【調査項目】外国人採用方法、待遇、海外進出の際の日本人社員の役割、現在の課題 など
【成果活用】企業によるニーズ、学習ターゲット、めざす人材像を具体化し、カリキュラム及び実施モデルの構築に活用する。

●調査B
【調 査 名】コンテンツ及びIT、情報通信系企業における外国人材受け入れ事例調査
【目  的】コンテンツ及び分野上関連があるIT、情報通信系企業を対象に外国人材受け入れの際に起こった問題や課題及び業界の外国人材雇用に関する現状と今後に関する情報収集を行う。
【対  象】コンテンツ及び分野上関連があるIT、情報通信系企業の15社程度
【手  法】ヒアリング調査
【調査項目】外国人材の採用、待遇、定着、業務、コミュニケーションで起こった問題及び業界における外国人材雇用の現状と今後 など
【成果活用】調査結果をもとにケーススタディとワークショップのテーマ等を具体化し、学び直し講座のカリキュラム、教育内容開発に活用する。

A講座のプログラム開発
本年度の実態・事例調査の結果とそれに対する分析に基づき、本講座のプログラム開発を行う。本年度は、講座のカリキュラム開発を行うこととする。その際には、下表の項目について具体化し、実施委員会・分科会での検討を経ることによってカリキュラムの策定を行う。
 

B講座の実施モデル構築
本年度の実態・事例調査の結果を分析し、さらに既存の外国人材マネジメント及び類似する内容の研修などを参考としながら、本事業における講座の実施モデルに関する項目について具体化を進め、整理を行う。
平成32年度において最終的な講座実施モデル構築を行うが、それに先立つ31年度の実施モデルのプロトタイプ構築とその実証実験を行うことを予定している。その際どのような項目を検討し構築・実験すべきかについて実施委員会・分科会にて精査し判断する。
主要な検討項目としては、受講者募集、講座実施、教育プログラム、eラーニング等の項目が挙げられるが、検討の過程で項目を追加したり、下表のように想定している中項目・小項目を参考に詳細化や具体化したりする。
 

第5節 実施体制
 本事業を推進するための体制は以下のとおりである。

 

 本事業の中核となる実施委員会の構成員は以下の通りである。